第二十二回「中学校」

 いよいよ、中学進学が近づいた時、小さなゆうたの心に変化が起こりました。母の明子が保健学博士として、講演会に出かけた埼玉のS学園の話です。その学園は全寮制で、現代が忘れた伸びやかな教育、人とのふれあいの中で人格を形成していく。そんな話を聞いて、軽い気持ちでその中学校に進む事になりました。目を輝かせて中学に入ったゆうた。友達も次々にできていき、努力が実り最優秀進学クラスに入る事になりました。ところが、途中から学歴中心の社会に対する疑問や、受験そのもののあり方に悩みはじめたのです。日に日にゆうたは暗くなりました。「なんで勉強しなければいけないの?なんで学校に行かなければいけないの?もっともっと意義のある事、やらなければならない事があるんじゃないの?」ある日、ついにゆうたの口から驚くべき言葉が飛び出してきました。「僕、中学辞めて働く」。

「中学生じゃ、どこも働かせてくれないわよ」
「世の中なんて思ったほど甘くないんだ」

 周囲の誰もがそう言いました。当時のゆうたは今では信じられませんが学校で一番、背が小さく、誰が見ても小学生にしか見えない小柄な子供でした。そんな子供が世の中で働いて生きてくなんて、のたれ死にしか考えられません。でも、ゆうたの目は恐ろしいほど真剣です。そしてやがて、本気で学校に対する疑問を抱きはじめました。決定的だったのは、月曜日から金曜日の寮生活の中で、ウォークマン等で音楽を聞く事が全面的に禁止となっていた事です。音楽は受験勉強をさまたげる。確かに受験を考えればそうかもしれません。でも、心の底から音楽が好きなゆうたには、どれほどの苦しみだった事でしょう。音楽は悪。むしろ、そんな状況の中で受験勉強に追い込まれていたのです。事件は早く起こりました。こっそり持ち込んだウォークマンが教員に見つけだされ、没収されたのです。この事件は世の中に対するゆうたの問題意識も絡んで決定的な結末へと流れ込んでいきました。

「なんのために勉強するの?」
「なんのために今、生きているの?」

 これから本当の人生を見つけだそうという中学生のゆうたにとっては真剣な問題だったのです。今でも、ゆうたが自分の信念を貫いて生きていこうとするその強さの始まりだったような気がします。こんなに早く受験校を飛び出す決心をしたゆうたの不安はどれほどだったでしょう。この頃のゆうたには明日さえ見えなかったと思います。このままではいけない。なんとかしなければ。その空回りする気持ち、そのつらさ、それでも現実的には中学生のゆうたにはどうしていいか具体的にはわかりません。とりあえず、誰でも受け入れてくれるそして、内申も関係ない神奈川県の公立中学に移る事になりました。ところが、誰も友達もいない。何もしらない学校でのゆうたの日々は幼い心にまた、苦しみをもたらしたようです。転校後まもなく、またゆうたは大きな壁にぶつかりました。小さなゆうたには現実の社会はあまりにも重くのしかかりすぎたのです。どうすればいいんだ。どうすればいいの?僕....

 


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